企業に対して行われる調査は個人レベルで行うものから行政など公的機関が行うもの、民間の専門会社が行うものまで幅広く存在します。
この記事では企業への調査目的から、企業調査の種類とその手法について解説していきます。
企業調査の重要性と目的
「企業調査」とは名前の通り、調査の対象を企業とし行う調査のことで、対象とされる法人企業に対して主に金銭面における信用状況を調査することです。
「信用調査」、「与信調査」とも称されます。
日本では企業同士の取引の際、大半が掛取引で実行されている為、企業間取引の前には企業調査を必ず実施します。
※掛取引・・・商品代金を引き渡しの際ではなく、後日振り込むこと。商品取引の支払方法の1つ。
掛取引の場合、サービス提供から支払完了までの間、取引先企業に支払猶予を与える形になるため、取引先企業に支払いの能力が認められない、もしくは猶予期間中に急激な信用力の低下が見られた場合、代金の回収が叶わないリスクが発生します。このようなリスク軽減の為に、取引実行前の信用状況把握はとても重要となります。
要は、代金の未回収(=売掛債権未回収)による自社の業績悪化を防ぐことを目的として企業調査が存在します。
ちなみに企業に対して実施される調査は、企業調査の他にもいくつか存在します。
それぞれの内容を把握し、違いを抑えておくといいでしょう。
企業に対して行われる調査の種類
企業調査が主に会社の「お金(信用)」に関することを第三者が知りたいと思った時に活用する手法であることはわかったと思います。
一方でややこしいですが、企業調査以外にも企業に対して行われている調査がありますので、代表的な3パターンの調査を紹介しておきます。
企業研究
就職する際の検討材料として、インターネットや参考文献を用いて企業の特色を調査すること。具体的には、基本的な企業データをはじめとして、その企業の業界での立ち位置や他社との違いの把握、そして、事業内容や福利厚生、初任給等をチェックした上で、自らの特性や志向合致するか否か、企業と自らとの相性を分析することを目的とする。
企業研究を通して、自分に合う企業の絞り込みを行ったり、企業に対する理解を深め、志望動機を明確にすることが叶う。
競合調査
競合他社の商品、サービス、特徴や戦略などを調べること。
競合調査には以下4つの工程が存在する。
【競合調査の主な流れ】
①商品やサービスの改良、戦略やオペレーションの改善等、調査目的の明確化
②調査対象とする企業の選定。3社以上ピックアップするのが望ましい
③仮設を立て、商圏調査の実施
※商圏調査・・・新たな施策を打ち出す際に、商業を営む地理的範囲(=商圏)を定め、その範囲の人口や地域特性また、顧客情報さらには競合情報など、さまざまな情報を収集し、多角的な分析を行うこと。
④調査の実行、分析
競合調査は、他社の戦略や強みを精緻に把握することで、差別化戦略を図り、自社の顧客層拡大や新規顧客の獲得、さらには業務の拡大に繋がる。
法人企業統計調査
法人企業統計調査とは、財務省管轄の定期的に実施される調査。
目的としては企業の活動実態の明確化。調査の中では、国内企業を分類し、財務諸表における各項目が集計される。
統計調査の中にも、2種類が存在し、違いは以下である。
【統計調査の種類】
①年次別調査
年度ごとに行われるもの。
調査の公表は9月の初旬。
②四半期別調査
資本金1,000万円以上の企業が対象で四半期ごとに行われるもの。
調査の公表は3、6、9、12月。
統計調査結果を見ることで、市場全体の業績傾向の把握が可能。
企業調査の必須項目
企業調査には3つの必須項目が存在します。その必須項目は3C(=3C’s of Credit)と称されています。
必須項目1:Character
必須項目の1つ目は「Character」
つまり「企業としての信頼度」を調査することです。
調査対象となる企業及び役員などを含む経営者が、現在トラブルを抱えてないか、もしくは過去にトラブルを起こしていないかを調査します。
この際の調査は主に支払面(=金融機関などとのやりとりが円滑か否か)を重点的に確認していきます。
具体的な手法については後述するため、ここでは割愛します。
必須項目2:Capacity
必須項目の2つ目は「Capacity」
これは「収入面に対する信頼度」を調査することを指します。
調査対象となる会社が事業を営むための体制が整っているか、支払いを実行する十分な収入確保が叶っているかの調査をします。
例えば、近年売り上げに悪い波が立っていないか、仕入価格の高騰などが理由で安定的収入の確保が困難になっていないかといった点をヒアリングすることで明確化していきます。
必須項目3:Capital
必須項目の3つ目は「Capital」
「資産」についての調査です。
調査対象となる企業に対し、資産(現預金や不動産等)を所有しているか、万が一未回収となった場合、担保となりうる資産を所有しているかについての調査をします。
この調査の際には、不動産謄本の取得や取引金融機関への調査が有効です。
また、決算書の内容からある程度の状況を確認することも可能です。
これまで記述してきた内容や「企業調査」と耳にすると、なんとなく小難しい印象をお抱えになる方も多いかもしれませんが、要するに調査対象となる企業の「信頼度」「収入」「資産状態」の3点を明確化することが重要なのです。
どんな方法で調査を進めるにせよ、この3点は必ず押さえておくとよいでしょう。
企業調査の手法
これまで記述してきた企業調査ですが、調査の具体的な手法としては、主に”内部調査”と”外部調査”の2パターンの手法があります。さらに”外部調査”における情報収集の種類として”直接情報””間接情報”の2種が存在します。
それぞれの手法について下記していきます。
内部調査とは
既に取引を開始済みの企業に対して実施する調査が内部調査です。
対象会社を担当している営業部門の社員などに対してヒアリングを実施し、調査対象となる企業の情報収集と分析を行っていきます。
新規取引企業に関しては、自社の社員はもちろん情報を持ち合わせていないため内部調査を実施することはできません。
既に取引開始後の取引先である場合、過去に支払遅延などの問題が生じてないかなどの情報を自社内の管理部(経理関係などの部署)から収集を図ります。
内部調査のメリットは、時間やコストのロスが少ない点にありますが、情報量や内容が不十分である点や、担当者の主観的意見にどうしても偏ってしまう点が大きなマイナス的側面と言えます。
外部調査とは
外部調査とは、対象企業や対象企業以外の第三者からの情報収集を行い、調査を進める方法です。
外部調査で取得できる情報には主に2種類あり、一般的に1つ目は直接情報、2つ目は間接情報と呼ばれます。
【外部調査の手段】
①直接情報
相手企業に対し、実際にアクションを起こして調査する等、直接的な手段を用いて得る情報を直接情報と言います。
相手企業への訪問による調査が基本となりますが、遠方の場合、電話を用いて調査をすることもあります。
また、調査に追加事項が生じた際にはメールなどのメッセージツールを使用することもあります。
直接情報調査を行う場合、相手企業の仕事の様子や在庫等を実際に見たり、「直接」必要情報が揃った決算書を入手することが可能な為、鮮度の高い情報を獲得することが可能です。
ただし、上場企業のような情報開示義務の範囲が広い企業を除いて一般企業が自社の情報を外部に提供することは稀です。
そのため直接情報を取得する際には、対象企業への配慮と対象企業が調査に応じることへのメリットを実感してもらえるような状態を構築してから行うようにしましょう。
②間接情報
間接情報とは、当人同士の直接的なやりとりはなしに、第三者を間に挟んで得た取引先の情報のことを指します。
第三者を挟んだ間接的手法で得られた情報は多角的な視点から収集でき、官公庁の登録情報を利用した登記情報や届出情報の取得や信用関連の不安に関する情報、さらには新聞・雑誌から得られる情報情報、インターネット上での口コミなどを参照した情報等、無限の情報収集を可能とします。
間接情報のデメリットとしては、情報の出所によっては不適切な情報を取得してしまう可能性があることが挙げられます。
企業調査にはそれを専門とする会社が存在するため、そういった専門会社に調査依頼するなど、うまく外部の情報機関を利用することにより、時間・コストの削減につながりますし、第三者に依頼することで自社では収集できなかった情報や高精度な情報の収集が可能となります。
企業調査を行う際には、どれか1つの手法だけを使用するのではなく、必要に応じてさまざまな方法を組み合わせて多角的な調査をすることが重要です。
さらには、企業調査にかける労力についても、費用と時間の両側面からコストを意識することがポイントです。
例えば、対象企業との取引金額やプロジェクトが大きい場合、費用や労力、時間をかけたとしても詳細な調査をすべきです。
反対に、小さな取引の場合、特に支払期日までの期間が短い場合は、必要最低限の調査で取引を開始するのが賢明でしょう。
企業調査を確実に行おう
企業調査は、自社と相手企業との取引開始可否を決断するうえで非常に重要なものです。
その為、正確な情報を多角的に収集する必要があります。
さらに、ただ単に収集するだけでなく、情報に基づき、正確な分析をすることも必要不可欠です。
大手企業の場合は企業調査を専門とする部署が存在するケースがほとんどですが、中小企業の場合、ほとんどが経理部や法務部の担当者が兼任しているケースが多いです。
企業調査を怠ると、予期せぬ状況に追い込まれる可能性があるため、企業調査を自社で実施・完結することに対して少しでも不安がある場合、調査・審査を専門とするプロの会社に依頼することをおすすめします。
調査の怠りや些細な見逃しで、大切な会社や従業員を路頭に迷わせないよう、体制やフローについては定期的な見直しとブラッシュアップを心がけましょう。